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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)10396号 判決

東京都○○区○○○×丁目××番××号

原告 甲野一郎

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 加藤勝三

同都豊島区目白一丁目五番一号

被告 学校法人学習院

右代表者理事 桜井和市

右訴訟代理人弁護士 栄木忠常

同 豊田泰介

同 赤木巍

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告甲野一郎に対し金三、五〇〇、〇〇〇円、原告甲野太郎に対し金金九〇〇、〇〇〇円および原告甲野花子に対し金五〇〇、〇〇〇円を支払え。

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文と同趣旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告甲野一郎(以下単に「原告一郎」という)は、昭和四三年四月、学習院高等科の第三学年に進級し、翌年一月、被告から学習院大学経済学部経済学科への入学の推薦を受け、その後右学科への入学を許可され、同年三月四日、右学科への入学許可証の交付を受けた。

2  しかるに同月一九日、被告の被用者である学習院高等科長浅沼早苗は、原告一郎の学習院大学経済学部経済学科への入学の推薦を取消す決定をし、同日原告一郎へその担任教諭を通じて推薦の取消しを通知し、また同じく被告の被用者である同大学経済学部長北山富久二郎は、右推薦の取消しを受けて、同月、原告一郎の右入学許可を取消す決定をし、同年四月八日到達の郵便で入学許可の取消しを原告一郎に通知した。

3  大学進学推薦制度について

(一) 被告の高等科から大学への進学については、高等科で大学進学の推薦を行ない、これに基づき大学の方で入学を許可する制度がとられているが、この推薦制度は、昭和四〇年三月、被告の最高議決機関である審議会が大学進学基準として定めたもので、高等科第三学年の第一、第二学期の平均成績と九月、一月の二回の実力試験ならびに一月に行なわれる大学実施の実力試験の成績に基づいてされるものであった。

(二) ところが、右進学基準によると、第三学期の成績が考慮されないので、一旦推薦がされると生徒が第三学期の授業を軽視する傾向があり、そのため昭和四三年一二月二三日と同四四年二月、高等科において、推薦の取消しを含めた推薦制度の内規の改定をした。即ち、(1)第一、第二学期を通じての平均成績と第三学期の成績とを平均して学年成績とし、これが平均六〇点に満たないときは推薦を取消す。(2)その他欠席日数や成績が五〇点に達しない課目(これを欠点課目という)等につき特別の考慮を払う等である。

4  原告一郎の推薦の取消しは、前項(二)の改定された内規に基づくものであるが、この取消しは違法であり不法行為に該当する。即ち、

(一) 原告一郎は、第三学年の第一ないし第三学期の各平均成績七〇点、七二点および五四点であった。従って三つの学期の平均成績は、六五・三点であり、前項(二)の内規に従って第一、第二学期の平均成績七一点と第三学期の五四点との平均成績を計算しても六二・五点となり、ともに改定された内規によっても推薦取消しにはならない成績であり、従って原告一郎に対する推薦取消しは違法である。

(二) また右内規の改定手続においても、本来被告の前記推薦制度は、被告の最高議決機関である審議会の決定事項であり、これをその下級機関である高等科だけの決定で改定することは許されず、改定された内規は無効なものであるから、これに基づく原告一郎の推薦取消しもまた違法である。

(三)(1) 第三学期の授業の予定日数はわずか一か月で、そのうち実際に行なわれた授業日数は約二週間であり、教諭の間でも第三学期を軽視し、授業を休講したり試験を行なわず適宜採点した事例もあり、また他の大学の受験を希望する者には第三学期の出席を強制しない等の事情がある。この事情のもとでは、第三学期の成績により一旦なされた推薦を取消すことは不合理である。ましてこの成績を第一、第二学期の平均成績と等分平均して同程度の価値を与えることはなおさら不合理である。

(2) また大学進学の推薦は、その年の一月中に高等科より大学へ出され、大学は、これにより進学適格者を選考し、その結果をみて他の高等学校からの入学者人数を決定するのであるから、その決定の後に高等科が一旦行なった推薦を取り消し大学進学者の数を減らすことは、このような制度の仕組を無視するものであり、生徒が刑事上の犯罪を犯したとかこれに類する生徒の反社会性が推薦後に発見された場合か、第三学年に高等科で実施する二回の実力試験や大学が実施する実力試験で、生徒が不正行為をしたことが推薦後に明らかになった場合等の特別の場合以外は許されない。

(3) 被告は、幼稚園、初等科、中等科、女子中等科、高等科、女子高等科、短期大学、大学の各部門を総合的に運営し、幼稚園、短期大学を除いては、初等科、中等科、大学と一貫した教育を施すことを指導理念としており、原告一郎の第三学期の成績が所定点数に僅かに不足したことを理由として推薦を取消し、大学への入学の道を閉ざすことは、この理念に反し、右取消しは許されない。

(4) また推薦の取消しは、右改定された内規によると、第三学期終了を待ってなされることになるため、時期的に他の大学を受験することができなくなり、このような処分は社会通念上許されない。

以上のように、改定された内規は、その内容からいっても違法なものであり、この内規に基づく原告一郎の推薦取消しもまた違法である。

(四) 改定された内規に前記(二)(三)の違法がないとしても、右内規の生徒、父母に対する事前の告知が不十分であり、そのため原告らをはじめ生徒、父母らは推薦取消しにつき十分認識していなかったので、そのような内規による原告一郎の推薦取消しは違法である。

(五) 高等科長浅沼早苗は、このような原告一郎に対する違法な推薦取り消しを故意に行なったものである。

5  北山経済学部長のした原告一郎に対する入学許可の取り消しは違法であり不法行為に該当する。即ち、

(一) 原告一郎に対する入学許可の取り消しは、前記のように高等科長のした違法な推薦取り消しに基づいてなされたものとして違法である。

(二) 推薦取り消しが違法でないとしても、入学許可の取り消しは違法である。即ち

(1) 大学への入学は、高等科から進学する者の他に、他の高等学校からの志望者も受け入れることとし、この点では、初等科から中等科、高等科へと進学する場合と異なり、大学は大学の独自性を保有し、その入学者の決定を行なってきている。従って大学は、一旦高等科が正式に推薦し、大学が入学を許可した場合は、刑事上の犯罪を犯したとかこれに類する反社会性が推薦後に発見されたとか第三学年に高等科や大学が実施する実力試験で不正行為をしたことが推薦後に明らかになった等の理由で推薦が取り消された場合は格別本件のような第三学期の成績不良の理由でされた推薦取り消しに基づいて入学許可を取り消すことは、大学の独自性の放棄であり、違法である。

(2) 入学許可の取り消しは、前項(三)の(3)の趣旨からも違法である。

(3) また本件入学許可の取り消しは、第三学期終了後であり、時期的に他の大学を受験することができなくなり、このような処分は社会通念上許されない。

(三) 北山経済学部長は、原告一郎に対する推薦取り消しあるいは入学許可の取り消しが違法であることを知りながらあえて入学許可の取り消しを行ない、そうでないとしても、このような違法な推薦取り消しに基づいて入学許可の取り消しをしないようにすべき注意義務があるにもかかわらずこれを怠り、過失により入学許可の取り消しをしたものである。

6  原告らは、進学推薦取り消しおよび入学許可取り消しによって、左記のような損害を蒙った。

(一) 逸失利益 金三、〇〇〇、〇〇〇円

原告一郎は、一年間浪人し、昭和四五年四月に他の大学に入学したが、この一か年の遅延により、定年までの就職年数が一か年程縮減するので、逸失利益は、一か年遅延しないで定年を迎えた場合の最後の一か年の俸給ならびに賞与であり、前記金三、〇〇〇、〇〇〇円はこれを最少限度に推定した金額である。

(二) 実質損害 金四〇〇、〇〇〇円

原告一郎の父原告甲野太郎が支出した(1)原告一郎の予備校通学に関する費用金二〇〇、〇〇〇円、(2)気分転換のための旅行費用金一五〇、〇〇〇円、(3)入学許可取り消し後に原告一郎がした原告一郎が学習院大学の学生である地位を定める仮処分命令申請のために要した手数料金五〇、〇〇〇円

(三) 慰藉料 金一、五〇〇、〇〇〇円

(1) 原告一郎においては、その精神的打撃に対するもの金五〇〇、〇〇〇円、(2) 両親である甲野一郎、同花子においては、その精神的打撃および前記仮処分申請のための調査奔走のための労苦等に対するもの各金五〇〇、〇〇〇円

以上の合計により、原告一郎において金三、五〇〇、〇〇〇円、原告甲野一郎においては金九〇〇、〇〇〇円、同花子においては金五〇〇、〇〇〇円の各損害を蒙った。

7  これらの損害は、被告の被用者である浅沼高等科長および北山経済学部長が被告の事業の執行につきなした前記不法行為によるものであるから、民法第七一五条により原告らはそれぞれ被告に対し、前記損害賠償の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。ただし原告一郎の受けた推薦は、後述のように最終的なものではなく、第三学期の成績が悪ければ取り消される性質のものである。

2  請求原因2中、原告主張の日に、入学推薦の取り消しと担任教諭を通じてその通知があったことおよび入学許可の取り消しと昭和四四年四月八日到達の郵便でその通知があったことは認める。

3  請求原因3の(一)中、高等科から大学への進学については、高等科で大学進学の推薦を行ない、これに基づき大学の方で入学の許可する制度がとられていることは認める。その余は否認する。なお推薦制度を定めたのは、学習院長の諮問機関である「進学特別委員会大学短大高等科分科会」である。また原告主張の推薦の基準は、後述のとおり、推薦の内定の基準であり、第三学期の成績が悪ければ取り消されるべきものであった。

請求原因3の(二)は否認する。被告の高等科から大学への推薦制度は、昭和四〇年三月一〇日左記の内容のものとして定められ、以後改定はされていない。即ち、

(一) 高等科第三学年の第一、第二学期を通じての平均成績および第三学期の成績が六〇点以上であること。

(二) 高等科第三学年の九月と一月に高等科が実施する実力試験の成績が四〇点以上であること。また一月に大学が実施する外国語試験の成績も参考とする。

(三) 大学各学部より指定された指定科目の成績が一定水準以上であること。

(四) 人物考査(病気を理由としない欠席、欠課、遅刻回数の判断を含む。)に合格すること。

(五) 推薦の決定については、毎年一月に高等科推薦会議が開かれ、そこでは第一、第二学期を通じての平均成績により推薦を内定し、推薦を最終的に決定するのは、第三学期の成績を加えた卒業時においてである。従って、一月に推薦の内定があっても、第三学期の成績が基準に達しないときは推薦が取り消されることになる。

4  請求原因4は否認する。4の(一)の原告一郎の成績は認めるが、この成績は、前記記載の推薦条件をみたしていない。4の(二)は否認する。4の(三)の(1)は否認する。第三学期は昭和四四年一月八日より三月三一日まであり、その授業日数は三五日である。(三)の(2)中、推薦取り消しが大学の入学制度を無視し許されないものである点は否認する。(三)の(3)中、被告が一貫教育を指導理念としていることは認めるが、その余は否認する。ここでいう一貫教育とは、一旦幼稚園あるいは初等科に入学すれば、そのまま何の苦もなく大学を卒業する資格が与えられるいわゆる「エスカレーター」式とは異なり、進学のたびに教育方針が異なることを避け、知育偏重の歪みを除去し、生徒を受験勉強の重圧から解放することであり、後者は、いわゆる大学受験目当ての詰め込式勉強をしないことである。従って高等科では、現在日本の多くの高等学校で大学受験のため第三学年の第三学期が軽視されているのに反し、大学受験という狭い視野に捕われず、第三学年の第三学期も他の学期と同様重要視しているのである。(三)の(4)中推薦取消しの時期は認めるが、その余は否認する。4の(四)は否認する。(1)被告は、昭和四三年五月一七日、高等科第三学年の父母会を開き、出席した父母に「学習院大学推薦進学資料」と題するプリントを配布し、かつ高等科長、同科教務課長および同科生徒課長がそれぞれ右進学推薦に関する説明を行なった。(2)また同年一二月二三日の父母会においては、出席した父母に対し、第三学年生徒の第三学期日程を記載したプリントを配布したが、右プリントには、「進学の最終決定は三月末の学年成績を以ってします」との記載があり、かつ高等科長が第三学期の成績が悪いと推薦を取り消す旨の説明を行なった。さらに、同四四年二月一日の父母会においては、高等科教務課長が同旨の説明をした。(3)その他、右以外の父母会および父母会終了後の父母と担任教諭との面接において、右推薦条件および第三学期の成績も推薦条件となる旨の説明を被告側より父母に対してしている。また第三学年生徒に対しても、担任教諭がホームルームの時間等に再三にわたり同旨の説明をしている。(4)その結果、原告一郎も、また右各父母会に出席した原告甲野花子もこの趣旨を十分知っているはずである。

4の(五)は否認する。

5  請求原因5、6はすべて否認する。

6  請求原因7は争う。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因1は、当事者間に争いがない。

二  請求原因2中、原告主張の日時に、入学推薦の取り消しと担任教諭を通じてその通知があったことおよび入学許可の取り消しと昭和四四年四月八日到達の郵便でその通知があったことは、いずれも当事者間に争いがなく、その余の事実は、被告が明らかに争わないので自白したものとみなす。

三  請求原因3の(一)中高等科から大学への進学については、高等科で大学進学の推薦を行ない、これに基づき大学が入学を許可する制度がとられていることは当事者間に争いがない。3の(一)(二)中その余の点については、これを認めるに足りる証拠がない。≪証拠省略≫によれば、(一)高等科から大学へ進学するための推薦基準は、昭和四〇年三月一〇日、学習院長の諮問機関である学習院審議会の分科会「進学特別委員会大学短大高等科分科会」の答申を審議会が可決し、それを院長に答申して決めたものであり、その内容は(1)高等科第三学年の平均成績が六〇点以上であること。欠点課目(四九点以下の課目)が二課目以下であること。(三九点以下は一課目を二つに数える。)(2)高等科が、第三学年の九月と一月に実施する大学の入学試験にかわるべき実力試験の成績が平均四〇点以上であること。大学で実施する外国語試験の成績が一定水準以上であること。(3)大学各学部より指定された指定科目の成績が一定水準以上であること。(4)操行が不可でないこと等を骨子とするものであり、この基準はその後変更されていない。(二)また推薦の決定につき、高等科は推薦会議を設けていたが、その会議の開催が昭和四〇年度以降従来の二月下旬から一月下旬に変更になり、そのためこの会議の時点では高等科第三学年の第三学期の成績が考慮されなくなるので、昭和四一年度から、高等科では、第三学年の第一、第二学期までの平均成績と前記基準(2)ないし(4)により一応推薦を内定し、最終決定は、第三学期の終了後とし、第三学期の成績が前記基準に達していない場合(ただし事実上平均六〇点に満たなくても五五点までは合格とすることにしていた。)は、内定してあった推薦を取り消すことを定めた。以上の事実を認めることができる。

四  請求原因4の(一)中、原告一郎の高等科第三学年の第一ないし第三学期の各平均成績が七〇点、七二点および五四点であったことは、当事者間に争いがない。≪証拠省略≫によると、原告は、第三学期の平均成績が右のように五四点であった他に、前項認定のいわゆる欠点課目の数が六であり、学習院大学経済学部の指定科目である数学も欠点課目であり、また大学進学にあたり重要視されている英語も欠点2という悪い成績であったことが認められる。従って、一旦は推薦の内定を受けても、この成績は、最終的には推薦条件をはるかに下まわり、推薦取り消しがなさるべき成績であると認められる。

4の(二)については、前項認定のとおり、推薦基準を定めた内規は、昭和四〇年三月一〇日に、進学特別委員会大学短大高等科分科会の答申を審議会が可決し、それを院長に答申して決めたものであり、その後は改定されていないのであって、ただ、推薦制度の運用にあたり、高等科が推薦の方法を若干変更したにとどまるのであるから、この点の主張も理由がない。

4の(三)の(1)については、≪証拠省略≫によると、次の事実が認められる。高等科第三学年の第三学期は、学習院大学に進学しない者には出席を強制せず、またその期間は、昭和四四年は、一月八日から三月三一日までで、その間の授業日数は、試験の日を含めて三五日間であり、第一、第二学期より短かいが、被告は、幼稚園から大学まで一貫した教育を施すことをその指導理念としており、推薦によって大学に進学させる制度をとることにより、大学受験という狭い視野にとらわれず第三学期も十分勉強をして力をつけさせることを方針としている。前記認定の推薦条件についての内規や高等科での推薦内定やその取り消しの方法も、この趣旨に基づくものであり、高等科では、第三学期の重要性を自覚し、教諭は、第三学期の重要性を生徒に強調している。この他、原告ら主張の休講の点はこれを認めるに足りる証拠はなく、また≪証拠省略≫によれば、昭和四四年度の第三学期では、化学は試験を行なわないで採点してはいるが、これは平常の授業を通じて評価をしたことが認められる。そもそも第三学期の成績をどのようにして評価して推薦するかは前記の内規に反しない限り、性質上高等科が教育的見地から自由になしうるところであって、第三学期の成績を第一、第二学期の成績と同等に重要視することは何ら違法ではない。4の(三)の(2)については、推薦の取り消しという方法が、第三学期を重視した被告の一貫教育の理念から出たものである以上、推薦取り消しにより大学が予定していた入学者数を獲得できないことになっても、このような技術的な問題のために推薦の取り消しが許されないとすることは本末転倒であり、この点の原告の主張は理由がない。4の(三)の(3)については、推薦取り消しが一貫教育の理念に合致することは前記のとおりでありこの点の原告の主張も理由がない。4の(三)の(4)については、推薦取り消しが第三学期終了後なされることは当事者間に争いがない。推薦取り消しは、被告の一貫教育の理念から出たものであり、後記認定のとおり第三学期の成績が悪ければ内定した推薦が取り消されることは、生徒も承知のうえ、推薦制度により学習院大学に進学することを希望したものであるから、第三学期の成績不良のため推薦を取り消され、その結果、仮りに時期的に他の大学の受験ができなくなったとしても、このことを推薦取り消しの違法の理由とすることはできない。

以上のとおり、推薦取り消しの違法をいう原告の4の(三)の主張はすべて理由がない。

4の(四)については、≪証拠省略≫によると、次の事実が認められる。被告は、原告一郎が高等科第三学年に進学したとき、(一)第三学年の生徒の父母に対しては、(1)昭和四三年五月一七日に父母会を開き、そこに出席した父母に「学習院大学進学推薦資料」と題する前記認定の推薦条件を記載したプリントを配布し、高等科長および教務課長がそれぞれ大学進学の推薦に関し説明を行ない、特に教務課長は、第一、第二学期の成績と二回の実力試験および大学が実施する外国語の試験の成績が推薦条件をみたしていれば一応推薦進学予定者となるが、最終的には、第三学期の成績を加味して推薦を決定する旨の話をしており、(2)また同年一二月二三日の父母会では、原告甲野太郎あるいは同花子が出席したが、出席した父母に、第三学期の日程と、「進学の最終決定は、三月末の学年成績を以ってします」という注意事項の記載されたプリントを配布し、高等科長が、第三学期の成績が悪いと推薦を取り消す旨の説明を行なった。(3)さらに昭和四四年二月一日の父母会においては、高等科の教務課長が出席した父母に対し同旨の説明をした。(二)第三学年の生徒に対しては、(1)第三学年の最初のガイダンスで高等科の教務課長および生徒課長が、前記昭和四三年五月一七日の父母会で教務課長のした説明と同旨の説明を行ない、(2)昭和四四年一月八日の第三学期の始業式終了後のホームルームで、各クラスの担任教諭(原告一郎に対しては、担任の鈴木勇作教諭)は、第三学期の成績が悪ければ推薦予定者の推薦を取り消す場合もある旨の警告をし、右鈴木教諭はその後も、自分の担当の授業の終了時に度々同旨の警告をし、(3)また同年一月三一日の第三学期の授業の始まる日の朝に、三年生全員を合併教室に集め、教務課長および生徒課長らは、第三学期の成績が推薦基準に達せずあるいは操行が悪いときは推薦を取り消す旨の説明をした。これらの認定に反する原告一郎の供述は信用できず、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上認定した事実によれば、大学進学推薦の最終決定は第三学期の成績をも考慮してなされ、その成績が悪ければ推薦の内定を取り消すというやり方は、事前に原告らはじめ第三学年の生徒およびその父母に十分告知されていたと認めるべきであり、この点の原告の主張も理由がない。

従って、原告一郎に対してなされた推薦の取り消しの違法を前提とする不法行為の主張は、理由がない。

五  請求原因5中(一)の主張は、前記四に判示したとおり本件推薦取り消しは何ら違法ではないので、この違法を前提とする原告の主張は理由がない。

5の(二)の(1)については、被告が前記のような推薦制度をとっている以上、適法な推薦の取り消しがあった場合に、これに基づいて入学の許可を取り消すのは当然であって、これをもって大学の独自性を損うものということはできない。

5の(二)の(2)(3)については、4の(三)の(3)(4)に対する前記四の判断と同様高等科のなした推薦取り消しに従って入学許可を取り消したことは何ら違法でない。

従って原告一郎に対しなされた入学許可の取り消しの違法を前提とする不法行為の主張は、理由がない。

六  以上のとおり、原告一郎に対してなされた推薦取り消しおよび大学入学許可取り消しが不法行為に該当するという主張は、ともに認められないので、右の処分が不法行為に該当することを前提とする原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井口牧郎 裁判官 高橋正 裁判官 千葉勝美)

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